NPO と高校生支援〜源泉、アウトリーチ、個別ソーシャルワーク、 学校内ソーシャルワーク、卒業後支援
■「支援」は成功する
僕は 30 年近く子ども若者支援をしている。その支援対象は、不登校・ひ きこもり・発達障害・虐待サバイバー/愛着障害・PTSD 等々幅広いが、 そのキャリアの半分は主として不登校・ひきこもり支援だった。
特に、20 才を越えたひきこもり支援には注力した。
その親への面談支援にも力を入れ、いわゆる「地雷(タブーワード)」に 触れないよう、定期的な面談支援の中で伝えてきた。
そのタブーワードは主として 3 種類あり、
1 学校や仕事の話題に触れないこと
2 親の老後・引退・死亡に触れないこと
3 同級生の現在に触れないこと
である。
これらの地雷の話題を極力減らし、また親が子をできるだけ「否定しな い」ことに務めると、家庭内の緊張感が減退し、家庭内に「安全・安心」 が訪れ、不思議なことに子どもは自然と「外」に目を向けていく。
この支援の方針に僕は絶対の自信を持っている。だから、僕が面談支援する不登校・ひきこもりの子どもとその親たちの多くが、なんらかの社会参加につながっていく。
■ひきこもり問題の源泉
ただ、10 年以上そうした不登校・ひきこもり支援をしてきて気づいたの は、個々の支援はそのような方針で社会参加に誘うことはできるものの、 その大元である不登校やひきこもりは一向に減らないということだ。
そのような問題意識を抱えつつ、日々の当事者・保護者面談支援をするうちにいつの頃から気づいたのが、彼ら彼女らには「ひきこもりの源泉」があるということだった。
「源泉」の時期は厳密にさかのぼっていくと、保育園や幼稚園時代に行 き着くのだが、「現象」としてそれが現れる、つまりは子どもたちが「我慢」 できなくなる時期は小学校高学年頃くらいからになる。
そして、個別にはそれぞれたどる道は異なるものの、多くは中学時代に 不登校になり、高校に進学するものの再び不登校になり徐々にひきこもる。
高校は通信制高校に転学するが幽霊高校生として時間が流れ、実態はひ きこもり当事者として長くて 10 年程度の月日があっという間に流れてし まう。
そして、僕が代表だった NPO のような、ひきこもり支援機関を親が訪 れることになる。
こうした経緯をたどる若者たちが本当に多かった。上に書いたように、 現象としての不登校・ひきこもりはまったく減る気配はなかったけれども、 支援の経験として僕は十分実績を積んでいた。
そして思ったのだ、 「ひきこもり問題の源泉である、高校中退の問題をなんとかしよう」と。 そんなわけで僕は代表を努めていた NPO を退職し、新たに小さな NPOをつくって、10 代後半の人たちを中心とした支援に切り替えた。
■アウトリーチとしての高校内居場所カフェ
そうした経緯で高校生支援を始めたのだが、具体的には「高校内居場所 カフェ」と上記のような面談支援をここ 10 年は行なってきた。特に、大阪 府立西成高校で「となりカフェ」と名付けて始めた高校内居場所カフェは、 メディア的にも反響を呼んだ。
となりカフェは 2012 年スタートだから、2022 年現在で 11 年目になる。 予算的には大阪府の委託事業(青少年課と教育委員会)で行なってきたが、 この間 2 年ほどは自主運営していた時期もある。
詳細は『学校に居場所カフェをつくろう』(明石書店)を参考いただきた いが、となりカフェも含んだ西成高校全体で高校生の支援に取り組んでき た結果、その中退数は 10 年で激減している。
この校内居場所カフェは主として 3 つの視点から支援を構築する。 それは、
1 安全・安心な居場所
2 ソーシャルワークの起点
3 「文化」を伝えることで「虐待の連鎖」を防ぐ
の 3 点だが、完全ではないにしろ、となりカフェをはじめに、他の居場 所カフェでも(現在僕の法人である office ドーナツトークでは、西成高校 以外に、府立長吉高校と府立大阪わかば高校で居場所カフェを展開してい る)、ある程度の成果をあげてきた。
■個別ソーシャルワークとしての「ひらの青春生活応援事業」
そうした経緯のなかで始まったのが、平野区独自の委託事業である「ひらの青春生活応援事業」だった。
本誌冒頭の論文『高校生の青春を応援する』(奥田・小橋執筆)にもある ように、この 6 年間で同事業は 105 名の高校生を支援してきた。そのなか には、小規模な「居場所カフェ」を通して支援してきた生徒も含まれる。
上論文で詳細に分析したように、ひらの青春生活応援事業の支援には十分なインパクトがある。
高校内居場所カフェは「アウトリーチ」として十分なインパクトがあっ たが、ひらの青春生活応援事業には、「個別のソーシャルワーク」として十 分すぎるほどのインパクトがあった。
また、スクールソーシャルワーカー個人として高校で働くのではなく、 NPO という「組織」として高校内に配置されることが、幅広い視点・つな がりと継続性を高校がもつことができる。
「組織」で支援することは、高校生たちが卒業したあとも OGOB 支援す るための土台にもなる。それらは、個人ではとてもできない。
この事業をできれば 10 年 15 年と続け、平野区以外にもこの個別ソーシ ャルワーク事業が拡大することを僕は望んでいる。
そのためには、理解ある行政と(特に首長と事業担当者の存在と理解が 重要)、この個別ソーシャルワークをこなす支援団体の両輪が必要になる。
■源泉、アウトリーチ、個別ソーシャルワーク、学校内ソーシャルワーク、卒業 後支援
このような経緯と意味をまとめると、以下のようになる。
1 ひきこもり予防の「源泉」としての高校生支援
2 「高校内居場所カフェ」でアウトリーチしたあと、「ひらの青春生活応援事業」で個別ソーシャルワークする
3 NPO という「組織」が高校に入ることで、高校自体がソーシャルワーク機能を複数年単位で有することができる
4 NPO という組織が参画することで、OGOB となり「社会」に入ったあとも悩み続ける若者たちをフォローできる
これをキーワードとしてまとめると、
a. ひきこもり予防としての高校生支援
b. アウトリーチとしての校内居場所カフェ
c. 個別ソーシャルワークの有効性
d. 学校内ソーシャルワークの有効性
e. 卒業後支援
等になるだろう。
この、予防、アウトリーチ、個別ソーシャルワーク、校内ソーシャルワ ーク、卒業後支援の 5 点こそが、日本の高校生支援と、広い点から考えれ ば「日本の子ども若者支援」のコアになるはずだ。
この 5 点を日本中の高 校が少しでももてば、現在の日本の子ども若者と親が抱える苦悩が軽減さ れると僕は確信する。
※『ひらの青春ガイドブック2』(平野区役所保健福祉課)より転載