タイトル: 高齢ひきこもりは「高齢者の海」に溶けていく
公開日時: 2017-01-27 19:18:18
概要文: それでいいじゃないかと思っている。父、病で 75 才で死亡、残された母は 80 才手前ではあるもの のウォーキング等で元気、子どもはいつのまにか 50 才前後、という家族は珍しくもなんともない。
本文:
■「40 代ひきこもり」にメディアが騒ぐ
今 さ ら だ が 、「 40 代 ひ き こ も り 」 に メ デ ィ ア が 騒 い で い る (http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG22H1Z_S7A120C1CR8000/ 引きこもり相談「40 代に対応」 62% 自治体の窓口 )。
僕はここ数年は 30 代後半から 40 代前半、つまりは団塊ジュニアひきこもりの相談(保護者相談含む)を受け ることが日常になっているため、ものすごく今さら感があるのだが、やはりこのテーマはインパクトはあるよう だ。
同記事も直接的には書かないものの、やはり「40 代ひきこもり」をネガティブなものとして捉えているようだ。 まあ、ネガティブといえばネガティブなのだが、僕はあちこちの若者支援者研修講演等で「我々支援者くらいは 40 代ひきこもりをある意味ポジティブに語っていきましょうよ」と提案している。
40 才までひきこもってしまうと、当たり前だが、今さら正社員にはなれない。 が、別にそれでいいではないか。正社員になったとしても、長時間労働を「空気」として強いられる社会で、パ ワハラ上司の横行する労働現場で、正社員の方々は日々疲労している。
そんなプチブラックな職場は日本中に蔓延しており、いっときひきこもった人々が正社員にたまたまなったとし ても、このようなプチブラック職場に入ってしまう可能性は大きい。
だから僕は無理して伝統的メンバーシップ制組織である日本の正社員社会に入る必要はないと思う。入ったって、 苦しいだけだ。
■地道な 40 代あるいは 50 代
が、まだまだ正社員(つまりは社会保険により保障されている立場)は尊重される。 まあそれはそれでよくわかるのだが、40 才までひきこもっている人たちとその保護者に僕がお勧めするのは、 そんな苦労してメンバーシップ的正社員を目指さなくとも、非常勤雇用(契約社員になれたらラッキー)でいい じゃないですか、ということだ。
が、現実には、契約社員どころかアルバイトも継続できないひきこもり経験者(「当事者」よりは少し社会参加で きている)は多い。現実はアルバイトもなかなか続かず、高齢化していく親のもとに長年生活し続けるという人 生を送る人は確かにいる。
それはそれで僕はオッケーだと思う。それまで、特に親御さんは一生懸命ひきこもりの子どもを社会参加させよ うと努力してきている。カウンセリングを受けたり勉強会に参加したり「親の会」に通ったりと、その努力はひ たすらけなげだ。
それでも、ひきこもりは続く。あるいはひきこもり時々アルバイトという状態は続く。そんな社会参加では当然 「高齢親」の経済力に頼ることになり、たとえ父が高齢で死亡したとしても、さらなる高齢ライフを送る母の庇 護のもとで地道な 40 代あるいは 50 代を送っている。
■「高齢者の海は広大」
僕はもう、面談支援において、70 代後半母(年齢的にはおばあちゃんではあるが見た目は非常に若い)に「お かあさん、95 才まで生きて、子どもさんの 65 才年金ゲットを何とか現実化させましょうね」と励ますことは 日常的になってしまった(http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakatoshihide/20161008-00063039/ 95 才母が亡くなったあと、65 才高齢ひきこもりは、年金・貯金、生活保護へと移行できるか)。
それでいいじゃないかと思っている。父、病で 75 才で死亡、残された母は 80 才手前ではあるもののウォーキ ング等で元気、子どもはいつのまにか 50 才前後、という家族は珍しくもなんともない。
こうした「高齢ひきこもり」を抱える家族を否定的に捉えても、僕はなんにも楽しくはない。このような状態の 「家族」はまだ 100 万人には達していないだろうが、もしかすると 10 万人は超えているかもしれない。 現在 40 代前半となった団塊ジュニア世代がより年を重ねていく時、このような家族像は珍しくもなんともなく なるだろう。
それを否定的に捉えても社会的にはマイナスなだけで、たとえば 60 代(高齢ひきこもりの 60 代です)ボラン ティアのあり方、90 代母がなくなったあと待っている生活保護の増殖(僕は現在の 4 兆円弱からその倍以上に なると予測している)も見据えたポジティブな高齢者のあり方を提案していくほうがずっと生産的だ。
いまの「高齢ひきこもり」はやがて 65 才となり年金受給年齢を迎え、しばらくは親の貯金(その頃は 95 才に なった母も亡くなっているだろう)で暮らしていくものの、その貯金を使い果たす 5~10 年後、つまりは高齢 ひきこもり者が 70 から 75 才になる頃、年金をカバーするために生活保護を受給することになる。
もうその頃は、ひきこもりがとうとかの議論はどうでもよくなっている。高齢ひきこもりは単なる高齢者になり、 多くは年金をもらいながら生活保護を受給するかもしれないが、そのような高齢者は現在も全然珍しくない。 いま、生活保護受給の 200 万人強のうち、半分は高齢者なのだ。
つまり「高齢者の海」に高齢ひきこもりは呑み込まれていく。「攻殻機動隊」の少佐のセリフ「ネットの海は広大 よ」ではないが、
「高齢者の海は広大」
なのだ。★
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